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広島地方裁判所呉支部 平成7年(わ)116号 判決 1996年2月29日

宣告日

平成八年二月二九日

裁判所

広島地方裁判所呉支部

裁判官

角田進

検察官

井越正人

中川一人

弁護人

中安邦夫

罪名

貸金業の規制等に関する法律違反、出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律違反、所得税法違反

被告人

氏名

井上羊市

年齢

昭和二五年二月七日生

職業

会社役員

本籍

福岡県宗像市大字朝町二三九三番地

住居

福岡県鞍手郡若宮町大字福丸一七〇番地の一

主文

被告人を懲役二年六月及び罰金六〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、福岡県鞍手郡若宮町大字福丸一七〇番地の一に居住し、北九州市などにおいて「コスモワーク」などの名称で貸金業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、貸金業者登録を従業員名義にするなどの方法により他人が営業しているように仮装し、顧客から受領した約束手形、小切手の取立を仮名、借名の預金口座で行い、利息等の収入を仮名、借名の定期預金にするなどの方法により所得を秘匿した上

第一  平成四年分の実際総所得金額が一億九、三九四万七、二二九円あったにもかかわらず、平成五年三月一五日、福岡県直方市殿町九番一〇号の所轄直方税務署において、同税務署長に対し、平成四年分の総所得金額が四三一万一、一四八円で、これに対する所得税額はすでに源泉徴収された税額を控除すると五〇万四、九〇〇円の還付を受けることとなる旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額九、一〇四万五、五〇〇円と右申告額との差額九、一五五万四〇〇円を免れ

第二  平成五年分の実際総所得金額が二億八、九三〇万八、八五二円あったにもかかわらず、平成六年三月一五日、前記直方税務署において、同税務署長に対し、平成五年分の総所得金額が五一一万七、九〇五円で、これに対する所得税額はすでに源泉徴収された税額を控除すると四一万一、九〇〇円の還付を受けることとなる旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億三、八六八万九、六〇〇円と右申告税額との差額一億三、九一〇万一、五〇〇円を免れ

たものである。

(適用した罰条)

一  平成七年法律第九一号による改正前の刑法六〇条、貸金業の規制等に関する法律四七条二号、一一条一項、三条一項、出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律五条二項、所得税法二三八条一項、二項

二  前記刑法四五条前段、四七条本文、一〇条、四八条二項

三  前記刑法一八条

四  前記刑法二五条一項

(量刑の理由)

まず、所得税法違反についてみると、本件は、貸金業を営んでいた被告人が、貸金業登録を従業員名義にする等の方法で他人が営業しているように仮装する等して所得を隠し、平成四年分及び五年分の所得については、役員報酬及び不動産収入を申告しただけで、貸金による所得を全く申告せず、両年分の合計二億三〇〇〇万円余の所得税を免れたもので、脱税額が多く、かつ、ほ脱率がいずれも一〇〇パーセントと極めて高い。

申告納税制度を採る租税制度のもとでは、国民が自己の所得を正確に申告することを前提としているから、不正の手段で所得を隠して税金を免れることは、国民全体の犠牲において違反者のみが不法の利益を得るもので、極めて反社会性の強い犯罪である。これらの点を考えると、被告人の刑事責任はまことに重い。

次に、被告人は、村田由紀と共謀の上、あるいは、単独で、登録を受けないで貸金業を営んだ上、いわゆる保証金方式による貸付けにより、多数回にわたり、多額の不法の利益を得たものであり、この点の刑事責任も軽視できない。

しかしながら、他方、被告人は、起訴された事件についてはすべて潔く認めて反省の態度を示していること、脱税した二年分については、すでに修正申告をして、本税は納付ずみであり、重加算税及び延滞税についてはいずれ近々完納することを言明していること、今後は貸金業を営まないことを誓っていること等酌むべき情状も認められるので、これらをも考慮した上、主文のとおり量刑した。

(裁判官 角田進)

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